2006.5.9（火）〜5.14（日） ギャラリーｆ分の１（御茶ノ水）
林 保明 『ノスタルジック・トレイン』
きっかけは、ほんの一瞬の事でした。ポーランドの古都クラコフの街を歩いていると、かなたの陸橋を黒い煙が通り過ぎて行ったのです。
｢あれ、SL？｣、半信半疑で近くの駅へ行って見ると、プラットホームの先の方にノスタルジックな汽車が、煙を吐きながら止まっていました。調べてみるとこの国には、昔ながらの大きな蒸気機関車が、まだ定期的に走っている場所があったのです。それがポズナンの近郊、ウォルスティンという小さな町の周辺でした。
子供の頃、機械はみんな大きく、美しく、夢のある存在でした。それが何時の頃からか、小さく、ポケットに入る機械が幅を利かせ、人間はブラウン管や小さな液晶画面の中で生活していると言った感があります。
このクラシックな機関車には、子供の頃の機械に対する憧憬の念を彷彿とさせるものがあります。子供心に思い描いていた、『人が労働し、生活する』と言うことは、こんな世界だったような気がして来るのです。
僕が育った時代は、テクノロジーがロマンに満ち溢れていた時代でした。南極観測船『宗谷』や、人工衛星『スプートニク』は、一時期、毎日のように未知の世界に対する夢を運んでくれました。汽車や電車という乗り物は、子供の目に映る世界を、確実に現実のものとして広げてくれたのです。
時移り、機械の恩恵を受けた人間は、思うままに世界を旅することが出来ます。でも、最近の僕が飛行機に乗り旅する世界は、未知の世界ではなく、過去の世界のような気がしてなりません。
これらの写真の中に、小さく点景として写る人々は、まさに子供の頃思い描いていた自分のような気がして来るのです。